俳優杉浦直樹氏の死/関西の山の会会員募集「山があるクラブ・U」登山クラブ

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話題2  俳優杉浦直樹氏の死(9月21日 79歳)

 
先週21日に俳優の杉浦直樹氏が肺腺がんのため亡くなりました。(24日朝刊) ずっとテレビドラマに絶え間なく見かけたような気がします。悪役もコミカルな役もできる人でした。代表作は山田太一脚本の「岸辺のアルバム」や向田邦子の「あ・うん」がテレビ史に残るドラマと記されていました。舞台ではやはり向田邦子の「父の侘び状」の持ち役でした。
 残念ながら「岸辺のアルバム」は見ていませんが、「あ・うん」は見ています。いかにも向田邦子作品らしく男と女の心の葛藤を描いていますが、男から見ると余り気持ちいいものでなく、嫌味が残ります。
 それに対し山田太一の作品は男女の心やそのすれ違いに触れるものの、どこかに暖かさが感じられて好きです。

 特に私が今も大事にしているDVD「今朝の秋」は1987年11月28日の放映からダビンクしたものです。
 これより前NHKは1982年に「ながらえば」、1985年に「冬構え」という笠智衆主演の山田太一作品のドラマを放映しています。「今朝の秋」はその三作目というわけです。
 「ながらえば」は貧しさ故に病妻を名古屋の病院に残したまま富山の息子と暮らさざるをえない男が妻に会いたいと黙って家出して鈍行列車に乗るものの、切符をなくし、途中の田舎町で泊まらざるをえなくなります。その町の宿では妻を亡くしたばかりの主人(宇野重吉)に助けられ、その亡妻を追憶するその主人と夜通し語り合う物語です。
 「冬構え」は自殺しようとしているしょぼくれた男が古川、平泉、宮古、八戸そして下北半島を行き、金持ちをかたって少ない持ち金を旅館の若い女へ与えると、その恋人が怪しんで金を返そうと二人で老人を追いかける話です。最後に下北で若者の年老いた父(藤原釜足)に会い、いろり端でしみじみ語り合うにいたり自殺をやめます。

 「今朝の秋」は息子の死を扱ってますがもう少し明るい感じです。
 今は蓼科の別荘地にひとり住んでいる男(笠智衆)は昔、妻(杉村春子)が男を作って出て行ったために一人で息子を育てあげました。その息子(杉浦直樹)には妻(賠償美津子)と学生の娘がいます。その息子ががんで残り少ない命と嫁から聞きます。別れた妻は今は連れの男も亡くなって女(樹木希林)を雇って割烹屋をやっていますが息子の病気のことを人伝えに聞いて、元の夫をなじり、勝手に病室で息子の世話をするようになります。たまたま息子を見て泣いてしまった母親を問い詰めて息子も自分が不治の病であることを察します。
 父親は「蓼科にまた行きたいな」という息子を病院には隠れてタクシーに乗せて蓼科に連れてきます。
息子が病院にいなくなったことを聞き、母親は男がきっと蓼科に連れて行ったに違いないと取り返えそうとします。医師はそんな女に「息子さんはしたいことをしてもいい患者なんです。」というものの女はそれにも反発して連れ戻しにレンタカーを借りて蓼科へ向かいます。
 息子夫婦も実は別れ話が進んでいて病気のため話は中断中と息子から聞いた男は「いい嫁だがあの女と同じで男の本当のよさが分からない」とつぶやきます。
 幸せそうな息子を見て母親は東京に連れ戻すのをあきらめ、蓼科で息子を中心に男、その別れた妻、息子の妻や北海道から帰った娘のつかのまながら夏の楽しい日が続きます。
 そして秋、息子の死。「蓼科に住まんか」という男にほろりとしながら「もう少し意地を張っていたいの」といって元妻は東京に帰ります。

 息子を演じる杉浦直樹の蒼ざめ、頬がかけた顔、病室での話しのやりとり、自分の病気が治ることがないと感じたときの表情、そして蓼科の空気を吸った幸せそうな輝きなど見事でした。
 季節をそして死というものを息子と父親で語り合う場面が最も印象が深く残っています。

   
      蓼科で家族皆が揃っての歓談               日頃のいらいらも忘れ「家族っていいな」と言う
      賠償美津子、笠智衆、杉村春子など

息子「もう秋なんだねえ」
父親「まだ秋とはいわんだろう」
息子「でもとても秋の空気だな。蓼科の秋はいいからね。静かでーー紅葉するとすごいよね。黄色い葉っぱがキラキラ光って、この庭も枯葉がとめどなく、降るように落ちてきて、大好きだな」
父親「先のことばかりいうな。今を楽しめ」
息子「フフほんとだね、夏の庭もいいけど」
父親「ああ」
とか
父親「案外わしの方が早いかもしれんよ」
息子「そんなことはないだろうけど」
父親「多少の前後はあっても、みんな死ぬんだ」
息子「そうだね、みんな死ぬんですよね」
父親「特別のような顔をするな」
息子「フフ、いうな、ずけずけ。しかしね、こっちは五十代ですよ。お父さんは八十じゃない。そりゃあ、こっちは少しぐらい、特別な顔するよ。フフ(顔ゆがんで、泣いてしまう。)」
父親「ーーー」
息子「(泣いている)」
父親「(涙が湧いてくる)」

 本当に泣けます。


   蓼科の秋をそして死について親子で語る

 何度も何度も見た山田太一作「今朝の秋」ですが 笠智衆も、杉村春子もそして杉浦直樹も亡くなってしまいました。残念です。
 素晴らしいドラマありがとうございました。天国でお幸せに。
 そろそろ蓼科の落葉松林も黄葉する頃です。 

きっとNHKはそのうち杉浦直樹追悼記念でこの番組を再放送すると思います。
文庫本は新潮文庫 山田太一 「今朝の秋」 560円です。 上記3編の他1篇が入っています。 2011.9.26

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