トムラウシ山の山行記録/関西の山の会会員募集「山があるクラブ・U」登山クラブ

山行記録

トムラウシ山(2141m)

2012年7月17日(火)〜20日(金)

 1991年7月6名で山中テント4泊5日で旭岳から上ホロカメットク山まで縦走した。この時の北海岳から白雲小屋、高根ヶ原の部分とトムラウシ山の天沼から南沼、そして黄金ヶ原の美しさが、ずっと脳裏に残ったまま21年が経った。大雪山、白雲岳、十勝岳方面はその後何回か訪れることがあったが、トムラウシ山へは行けないままだった。
 今回、体力的にも最後の機会と、蝶ファンの南井さんとでかけることができた。それもテントを背負ってヒサゴ沼と南沼に2泊してトムラウシ山をすべて味わいつくそうという贅沢な旅だった。

7月17日(火) 晴れ
 新千歳空港で後の便で着いた南井さんと合流し、レンタカーで市内のイーオン店で明日から3日間の食料を購入した。千歳東ICから道東道に入る。片道1車線がほとんどだが、走る車は少なく順調に進む。スキーツアーで何回か通ったりした占冠やトマムを過ぎて広い十勝平野へ向けて下り、十勝清水ICで一般道に出た。十勝名物の豚の昼食を摂ってから真っ直ぐ北へ向かう。トムラウシ温泉まで約70kmというから北海道の山は深い。山間に入ってからの40kmは東大雪湖などの畔も通るが、畑も人家もほとんどない。走り疲れた頃道は砂利となり、やがて少し下って右に谷を渡るとトムラウシ温泉、東大雪荘だった。


    トムラウシ温泉 東大雪荘

 4階一部5階建ての大きな建物だった、。ここでキャンプ場やトムラウシ山の情報を教えてもらった。キャンプ場は水道、トイレは使えないが、テントを張るのは自由ということで安心した。ロビーの白板にはカムイ天上付近のぬかるみが"田植え状態"という言葉で表現され、また南沼のお花畑が赤、白、黄色で感激したとか、星空にも感激と言った言葉が書かれていた。
 キャンプ地でテントを張り、一旦温泉に戻り、湯に浸かってからテントの中で夕食を済ませ、明日からの山行きに備えた。

7月18日(水) 晴れ後曇り
 4時過ぎに起床。ラーメン等の朝食を済ませ、テントをたたんで短縮路へ向かう林道を車で行く。距離7kmで林道の終点に着いた。車2,30台は駐車できるスペースがあり、トイレや入林届箱も設置されている。トムラウシ温泉からの登山路を利用するより1時間は短縮できるので、今はここが実質の登山口になっている。

  
       林道終点、登山口の南井さん         カムイ天上の先からトムラウシ山頂上を望む


 ここを出発して25分も行くと旧登山路と合流する。トドマツ等の喬木の中の急な坂を約1時間登ったところがカムイ天上で標識がある。ここから3分ていどの所に新道の標識があり、コマドリ沢沿いに行く旧道は杭で閉鎖されていた。路の崩壊等安全上の配慮からだろう。こからはダケカンバ帯の中の路で、ところどころ、ぬかるみが現れるが、ここ数日の好天で苦労するほどではない。取っ付き側では木道の整備も始まっていて資材の丸太などが準備されていた。
 長い平坦な路に飽きる頃日も上がってきて暑くなる。右に谷が近づくと谷の向こうの稜線のそのまた向うにトムラウシ山の頂が見えてきた。やがてコマドリ沢への標高差100mの下りがあり、そこから谷沿いに少し登るとコマドリ沢の水場に出る。
 雪渓の水を融かした水で、冷たくておいしい。キツネのエキノコッカス菌がいるので北海道の生水は飲まない方がいいとよく言われているが、それは里に近い方のことで、高山ではキツネも少ないし、水量も多い雪渓からの水ではあてはまらない。あまり神経質なのは馬鹿げている。
 黄色のウコンウツギがきれいな水場を後にして北の小谷を登る。もう少し早い時期なら、水場からずっと雪渓を登れて楽だが、今は雪渓は3,4割残る程度で、残りは脇の登山路を登る。30分も登ると直径1mほどの岩のみの岩原の斜面となりこれをトラバースして左岸に出る。ここからは普通の登山路で花も多くなってくる。
 時々キュッとゴムをこすったような音が聞こえ、靴底か思ったがそうではなく、ナキウサギの声だと思いついた。ここからずっとヒサゴ沼まで、この声を聞き続けることとなった。大雪山に比べて圧倒的に多いと思った。
 水場から約1時間の登りで着いたところが前トム平(1738m)だ。礫地には乾燥性のお花畑が広がり、イワブクロ、チシマキンレイカ(別名タカネオミナエシ)やチシマギキョウが群れて咲いていた。

  
前トム平のお花畑 イワブクロ、チシマキンレイカ、       前トム平のチシマギキョウ
  チシマギキョウ

 ここから小ピークを越えて右に岩場を下り、着いたところがねトムラウシ公園で、ピンクのエゾコザクラ、黄のミヤマキンバイ、そして白のチングルマ等が湿性のお花畑を形作っている。真ん中に雪解け水が豊かに流れて心休まる公園だ。しばらく写真撮影に夢中になる。朝早くトムラウシ温泉を出発して、頂上を登り、帰る軽装のパーティーに会う。


   トムラウシ公園のお花畑


 ここからトムラウシ山を載せている台地への登りにかかる頃、雨がポツリポツリと来て、雨具を付けるが、その後は雨は止んで、ガス模様となった。途中コマクサの咲いていたが、暗くて色もさえないだろうということで、明後日の帰路に撮影することとして、南沼のキャンプ地へ直行した。
 キャンプで路は右へ頂上への直登路、その左に北沼への巻き路、そして左に十勝岳方面へ向かう路に分かれる。
 頂上からは登山者がまばらに降りて来るのが見られた。
 私達は天候も悪いので頂上は明日登るとして、巻き路を取る。しばらくチングルマ、エゾツガザクラ等が雪田や池そして様々な形をした溶岩を取り巻くように彩る。この先巻き路には
頂上部から流れた岩原が3本ほどあり、この岩の頂を跳ぶようにして進むので、北沼までは意外と時間がかかった。頂上経由と差はない感じだった。北沼もガスがかかり半分しか見えなかった。
 北沼からヒサゴ沼までは火山の小噴火丘や小クレーター等が散らばっていて、しかも例の溶岩の岩原が続きコースも大きく迂回するところがあるなどガスの中では方向を見定めるのに少し気を使った。15mおきに付けられたピンクのビニルテープと岩上の踏み跡が頼りだ。天沼付近にもヒサゴ沼へ下るルートがあるはずだったが、その分岐は見付けられなかった。
 3年前の7月9人が低体温症で亡くなった遭難事件もこうした見通しの悪い天候よりもさらに悪い条件では確かに十分に起こりえたと思う。
 天沼からさらに行ったコルにヒサゴ沼への分岐の標識があり、ここを右に下り、ヒサゴ沼の避難小屋とキャンプ地に着いた。小屋は2階建てで、北から来た人達は雨に会ったとのことで、雨具が所狭しとぶら下り人いきれと湿気と暗さでうっとうしく泊まる気になれなかった。どう見てもテントの方が清潔で明るく気持いい。テントに慣れないという南井さんは勇気を持って小屋に泊った。
 風はあったが、夜半には止み、雲ひとつない星空が広がっていた。

 
                      北の空にかかる北斗七星と北極星

7月19日(木) 晴れ
 朝3時過ぎに起床して東の空にカメラを向け、ニペソツの峰とヒサゴ沼の湖面が光るのを撮影した。朝食の後コルの分岐点に戻る。このあたりは日本庭園と呼ばれ気持いい稜線歩きだ。ホタルブクロやチングルマの咲く庭が続き、時折ヒサゴ沼とその向うのニペソツや石狩岳等の東大雪連峰が青く連なっている。1850m付近から1970mの溶岩台地に登るあたりは"ロックガーデン"と呼ばれている。昨日通った岩原をいくつか渡る途中、南井さんがナキウサギが岩上に現れたのを見つけ撮影に成功した。声は絶えずあちこちから聞こえるもののなかなか姿を見ることは難しい対象なので、非常にラッキーだった。

  
ヒサゴ沼で設営 2人用だが荷物スペースや          天沼付近からのヒサゴ沼とニペソツ山
靴置きスペースもあり十分に広い               右奥はウペペサンケ山

    
     天沼付近のイワブクロ             ナキウサギ(天沼〜北沼間、南井氏撮影)


           北沼

 台地へ上がると目の前に青く澄んだ北沼が現れ、その南岸には5-10mの厚さで、その壁が沼に落ち込んでいて海に落ち込んでいる氷河の氷河の様だった。
 北沼からトムラウシ山頂上へ向かう路は3本あり、最もゆるやかな左側の路を登る。標高差120mで約20分の登りだ。山頂は南南西に開いた火口を囲む火口壁の西南端だ。独立峰だけあって頂上からの展望は申し分ない。北の大雪山、東の石狩、ニペソツの峰々、そして南に南沼と十勝連峰を見渡すことができた。
 南沼キャンプ地への下りは多少急だが、難なく着くことができた。雪田から流れ出た水場の側のサイトにテントを張った。まだ昼前でゆったり気分で昨日見た巻き路周辺のお花畑へ向かい、今回の山行で最高の景色を存分に楽しむことができた。天気もよくて、花々の色も美しかった。クッション状に盛り上がったチングルマ、ピンクのエゾノツガザクラ、緑色のアオノツガザクラ、そしてそれらのハイブリッドであるオレンジのニシキツガザクラ、他にエゾコザクラ、ハクサンイチゲ、ミヤマキンバイ等々色とりどりだ。今度の山旅の目的とするものがそこにあった。

  
   南沼キャンプ地付近のチングルマと          南沼キャンプ地付近のチングルマと
   エゾノツガザクラのお花畑              エゾノツガザクラ

 テントに戻って昼食中、美瑛から林道、三川台(サンセンダイ)経由でやってきたパーティーから黄金ヶ原の様子を聞いてみた。昔チシマノキンバイ(シナノキンバイとよくにているが大雪山系はこちら)で黄金色一色に染まった風景が印象的だったので明日朝、往復するつもりだった。しかし今はそうした風景は見なかったと言われ。ササに侵食されてしまったのではと言うことだった。なにか納得できずひとり黄金ヶ原を見通せるところまで出かけてみる。南沼は雪が水面下に沈んだ部分が美しいライトブルー。残るもう半分が深いコバルトブルーを見せ、不思議な風景だ。
大変な広さでゆったりとした傾斜を見せる黄金ヶ原には黄色のお花畑があるようには見られず、半分の距離のところで引き返した。

   
      黄金ヶ原への稜線のタカネシオガマ                 トムラウシ山と南沼キャンプ地

7月20日(金) 晴れ
 夜明けの景色を見るため南沼を見下ろす崖まででかけた。ニペソツの周りの空はすでに赤い。陽はニペソツの背後で上り、近くの峰々や岩塔が赤く染まり、オプタテシケや十勝岳の連峰も明るく浮かび上がってきた。、
 今日も昨日にまして好天だ。朝食そしてテントの撤去をして一昨日の登路を下る。コマクサの群生地で花を撮影し、トムラエシ公園まで着く。一昨日感激したそのお花畑も、南沼のお花畑を見た目には花の密度が薄いように見えた。ここから小ピークへ上がると、トムラウシ温泉からの日帰りのパーティに会うようになる。テント泊まりの私たちを見て「うらやましい。」という人もいたが、確かにそうだろう。南沼はじめ周辺の見所を見ないままの頂上だけの往復は悔いの残るものと思う人もいて当然だろう。
 ここからはハイピッチで林道終点の駐車場へ向かう。11時過ぎに到着。そして東大雪荘で温泉に入り、残ったパンなどで昼食を済まし。次の目的の山、大平山と狩場山への最初の宿泊地、黒松内へ向かった。 (清水)

   
         夜明けのニペソツ山                             南沼と十勝連峰

   
        トムラウシ南麓のコマクサ                  トムラウシ公園東の小ピークから見たトムラウシ山

参加者 会員2名(清水、南井)

コースタイム

7月17日(火) 7月18日(水) 7月19日(木) 7月20日(金)
伊丹空港JAL3911他 8:10&8:30 トムラウシ温泉キャンプ場
 林道7km
5:00 ヒサゴ沼1650 5:45 南沼1980 5:55
新千歳空港
 レンタカー買い物
10:00/10:40 短縮林道終点950 5:25/5:35 稜線沼分岐 6:20 トムラウシ公園 7:05/7:15
千歳東IC
 道東道 111km
11:30 同分岐1000 6:00 1880mピーク 7:45/7:55 1800mピーク 7:35/7:40
十勝清水IC 70km 12:50 カムイ天上1240 6:55 北沼2000 8:40/9:05 前トム平1738 8:00
トムラウシ温泉キャンプ場
700 テント泊
15:00 コマドリ沢分岐 8:40/8:50 トムラウシ山2141 9:30/9:55 コマドリ沢 8:40/8:50
  前トム平1738 10:00/10:05 南沼1980 10:15/12:45 カムイ天上1240 10:10/10:20
トムラウシ公園 10:00/10:55 黄金ヶ原道中間点 13:40/13:50 短縮林道分岐1000 10:50
トムラウシ南沼1980 11:50/12:45 南沼1980 テント泊 15:00 短縮林道終点950 11:10/1120
北沼2000 13:35 トムラウシ温泉 70km 11:40/13:10
天沼 14:15 十勝清水IC
 道東、道央道271km
14:30
ヒサゴ沼分岐1800 14:40 黒松内JT 10km 17:00
ヒサゴ沼1650 テント泊 15:15 黒松内
 買い物、及川旅館泊
10:10/10:20


      歩行距離   累積登高 累積下降
18日  13.9km       1440m  -718m
19日   9.5km        891m  -627m
20日   8.7km        230m -1216m
計   32.1km        2561m -2561m

  

             トムラウシ山のトラック地図1                         同詳細地図
これらの背景地図等データは、国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである。